赤この♀でラプンツェル(?)

昔々あるところに木葉という髪がやたら長い少女が高い高い塔の上に閉じ込められておりました。

それというのも、彼女を妊娠した母親が、この塔に住む妖精の畑のラプンツェルをどうしても食べたいと強請り、仕方なく夫が盗みに入ったのが即バレて、ラプンツェルをやる代わりに生まれた娘を差し出せと言われて、まさかの野菜と等価交換されてしまったからです。

そんな訳でレタス的な野菜と引き換えに妖精に育てられた娘木葉は、すくすく成長し、やがて12歳になると妖精こと猿杙から『木葉は抜けてて変な男に引っかかりそうだからちゃんと勉強するまでこの塔の中に居る事!ついでに俺の事髪の毛で引き揚げよろしく!』と頼まれ、内心そんなに俺は抜けてるのか…と思いながらも言う事を聞いてました。

ある日の事、いつもの様に猿杙を引き揚げている所を赤葦という通りすがりの王子が目撃し、あんな高いところに誰か住んでるのか、と気になってつい近くまで見に行きました。

しかし、塔は高く、とても入れそうにありません。

そこで、妖精が居ないタイミングを見計らって妖精と同じように髪の毛を垂らしてくれと叫ぶと、しゅるしゅると美しい金糸が目の前に降りてきましたので、それを掴んで上に上ります。

塔に居たのは、妖精を引き揚げた筈が人間で、大層驚いている木葉で、思わず王子は二度見しました、全てがドストライクだったのです。

「あの、俺の名前は赤葦京治と言います。貴方は?」

「え、あの、俺は木葉。お前は何者だ?」

「通りすがりの王子です」

「通りすがりの王子!?」

「貴方は此処にお一人なんですか?」

「い、いや、育ての親が一緒だけど…」

「…そうですか。あの、初めましてでこんなことを言うのは大変恐縮ではあるのですが、…貴方に一目惚れしました、好きです」

「…は?………は?!」

「いえ、分かっています、段階を踏めということですよね。俺そういうのはちゃんとするタイプの王子なので安心してください」

「待って何も分からん!どういう事!?」

「じゃあ今日は帰りますね」

「このタイミングで!?嘘だろお前!」

赤葦王子はそれだけ言うと本当に塔から降りていきました。

しかも普通にその辺の蔦を掴んでスタイリッシュに降りる様を、木葉は呆然と見る事しか出来ませんでした(そりゃそうだ)。

そして、妖精の帰宅にまた髪を下して、妖精を引き揚げましたが、今日の事を話そうと思ってもわけが分からな過ぎて説明出来ない、と、何も言わずに今日の事は忘れる事に決めました。

次の日の事です、まだ妖精も塔に居る時間に塔の下から声がします。

「木葉さーーーん、おはようございます!今から行きますね!」

「うわあ!?あの人素手で登ってる!本当に人間なの!?」

ドン引きの妖精がそう叫びますが、一切気にせず涼しい顔で塔をロッククライミングする赤葦王子、しかも何か持っているようです。

5分位で塔の一番上に登り切り、警戒して木葉を後ろに隠して睨み付ける妖精に、赤葦王子は腰を折って真摯な面持ちで見つめます。

「俺の名前は赤葦京治、隣の国の王子です。初めまして」

「…何の用?勝手に人ん家入ってきて」

「昨日、そちらの娘さんに一目惚れしました。ので、これからこちらに通わせて頂きたく、親御様に許可を頂きに参りました」

「律義~~~~~~!」

「これ、俺が庭で育てている大根です、良かったらどうぞ」

「手土産まで!悪い男に騙されたら大変だと思ってこうして隠してたわけだけど、とんでもない奴ひっかけたね木葉!」

「お、俺の所為じゃない!多分!」

「はい、木葉さんの所為じゃありません全部俺の所為です。俺が木葉さんを一目見た瞬間身体中の全細胞が『結婚!』って叫んだんです」

「怖い!ひたすら怖い!」

「初対面の奴にこんな事言われたら普通に怖いと思います、なので、良かったらお友達から始めませんか?交換日記なんかどうです?」

段階を踏むことに定評のある赤葦王子の提案に、木葉はおろおろしながらも取り合えず妖精に視線をやります。

妖精は、大根をおろしながら「なんか大丈夫そうじゃない?ダメならぶん殴って塔から突き落とせばいいよ~」と微笑みました。

「…友達なら。でも俺毎日此処にいるから日記に書く程の事がないんだけど…やる事と言ったら暇つぶしに歌う位で」

「!じゃあ俺が色んなとこに連れていきますよ。日記に書けるような」

「え、それって良いの?俺此処出て良いの!?」

妖精は門限6時なら良いよ~、と答えました、ゆるゆるでした。

「お友達スタート、交換日記を経つつ初デートをし、いずれお付き合い…これ以上ない程段階を踏んでますね、これなら大丈夫でしょう」

「…なんか良く分かんねえけどさ、お前面白いな、俺美味しい果物が生ってるとこ行きたい!連れてって!」

「任せてください!ちゃんと5時50分には送り届けますから!」

「10分前行動…流石だな赤葦…!」

因みに塔から連れ出す時も戻る時も木葉を担いで赤葦がロッククライミングしていた為赤葦の筋肉は良い感じに鍛えられましたし、見兼ねた妖精がとうとう階段や梯子を作ってくれました(優しい)。

そんな訳で、アクティブで律義な赤葦王子に色んな所に連れてって貰ったり、塔の中で仲良く持ち込んだカードゲームで遊んだりを経て親交を深めた二人は、無事にお付き合いを始めるに至りましたとさ。

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