川瀬見♀で人魚姫(?)

昔々、ある海の中に地上への夢に溢れた人魚、瀬見がおりました。

人間が落としていったゴミすらも、彼女にとっては興味の対象でした。

人間と話してみたい、人間の世界を知りたい、そう思う彼女の近くで、偶々難破した船から人間が落っこちてきました。

人間が水の中では生きていけない事位は知っていたので、慌てて海岸迄片手で担いで(米抱き)泳いでいきました。

とはいえ沖からなので、着いた頃には人間の呼吸は止まっており、やべえこれ死ぬんじゃね、と思った瀬見は、折角初めて会った人間が即死亡とか悲しすぎると闇雲に彼の胸付近を思い切りぼこすか叩きました。

するとどうでしょう、ぴゅう、と口から息を吐き出しながら人間の男は息を吹き返したではありませんか。

かなり適当ではあったものの、奇跡的に処置が良い方向に向いたことに瀬見はラッキー!と目を覚ましそうな人間の前でワクワクしていると、不意に後ろから思いっきり引っ張られて海へ落ちました。

何事かと振り返ると、青筋浮かべた白布が中指を立てていました。

「あんっっだけ人間には近寄るなって言いましたよね?」

「アッ…ごめんて怒んなよ!」

「前にも言いましたが人間は俺達を餌位にしか思ってませんし、俺達の肉を食えば不老不死だとか出回ったせいで、俺達の仲間はかなりの犠牲になったこと、忘れたわけじゃないでしょう?」

「そりゃ忘れてないけど~~~!」

「じゃあ不用意に近寄らない!焼き魚にして食われますよ!」

有無を言わさない仲間の言葉に、瀬見は仕方なく引き下がります。

「でも、あいつが目を覚ますまで遠くから見守る位なら良いだろ?」

「…まあ姿を見られないのなら許可しましょう。バレたら…」

「分かってるって!こっそりこっそり!」

息を吐く様に脅す白布に瀬見はそう言って笑って、岩陰に隠れた状態でこっそりとその人間を観察し始めます。

背が高く、茶色の髪の毛、恐らくは豪奢な部類の服装はびっしゃり濡れていますが、見慣れない色は目を引きました。

人間は息は吹き返したものの、まだ目を覚まさなそうだったので暇な瀬見は歌でも歌って待つことにします。

「よく見て~~素敵ね~~こぉれでもぉっと完璧~♪」

「怒られる!!」

瀬見が歌いだした瞬間人間はがばっと起き上がって叫びました。

「あれ?今なんか歌が…それもやばいやつが…」

「俺音痴じゃねえけど!?」

思わず瀬見が叫んでしまい、白布の形相を思い出して慌てて海に潜ってそのまま海魔女さとりんの所へ泳いでいきました。

「天童頼む!あいつ腹立つ!俺音痴じゃねえ!人間になる薬くれ!」

「えー声を失くさないと人間になれない上に振られたら泡になる薬しかないよ~?やめときなってーハイリスクだしさあ」

「それも辞さぬ構え!」

「音痴の汚名返上に声を失うって本末転倒じゃない!?」

結局天童が作ったその薬に、瀬見が適当にその辺の薬をれっつらまぜまぜした結果生まれた謎の薬を飲むと、声は出るが歌しか歌えず、足がほぼ力が入らず歩けない状態になり、目当ての人間と三日以内にキスをしなげれば泡になるというさらに難易度の高い感じになりました。

しかし瀬見は、人魚界ではそれなりに名を馳せた歌人、知らない人間に突然の歌やばい宣言を黙って見過ごせはしないと薬を一気飲み!

そんな経緯で人間になり、陸へカチコミしにいった瀬見を心配する白布でしたが、まあ英太ちゃんなら多分大丈夫じゃない?と天童は然程心配せずに見守る方針を決めました、奔放なのは昔からでしたので。

案の定、浜辺で足がつった人みたいになってる瀬見を人間、川西と名乗る王子が助け起こし、歌でしかコミュニケーションが取れない瀬見を城の歌手として雇う事を決めました(※ミュージカル風に説明)。

城でも何処でも歌いまくる瀬見に、川西が俺前に人魚に会ったことがあるんです、と唐突に話してきます。

「凄く綺麗な声で、そうですね、瀬見さんに似てました」

「やばい~~うたじゃ~~なかったの~~♪」

「いやそれは曲が…あの、端的に夢の国に消されます」

「いみが~~分からない~~ぜ~~~♪」

「ていうか瀬見さんですよね?あの日歌ってたの。声同じだし」

「………いつの日か~~~陸の~世界のぉ果てまでぇ~も~~♪」

「もう答えですよね?!どうやって人間に!?」

「川西の~~~すけべ~~~♪」

「ええええ…」

この人達が会話する時いつもこんな感じで、一応意思疎通は出来ているものの会話になってるとは言い難いところがありました。

ド困惑してる川西の頬を瀬見が引っ掴み、無理やりキスをします。

足が動かない為無駄に匍匐前進が得意になり、この位容易いのです。

「っぷは、これでやっと話せるな!あの時お前を助けてやった人魚だぜ、三日位以内にお前にキスしないと泡になること忘れてたからさくっとさせて貰った!悪いな!これで俺は人間になれた!半分!」

「ちょっと理解が追い付かないんですけど!?どういうことですか?!」

無事にキスさえしてしまえば、陸では人間、海では人魚に戻れるんだぜ、脚の痛みも歌以外の言語もお手の物、とドヤ顔する瀬見に、川西はああ、そういうことですか、と驚きの順応力を見せつけます。

「つまり瀬見さんが俺の嫁に来てくれると。望むところです!」

「ん?まあそういうことだな!じゃあ幸せにしてやるよ!」

…遠く、海から、天童の『どういうことなの?!』と言う声が潮風で運ばれてきましたが、どうもこうもなくハッピーエンドなのでしたとさ。

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