ピンクでハートの弾丸に - 2/2

 俺、花垣武道は本日二十七歳の誕生日を迎える。
 特に節目でも何でもなく、ああまたアラサーに一歩近づいたなぁ、なんて思うくらいで今更感傷的なことを思ったりも特にしない。
 ただ、仕事をちょっとだけ早めに終わらせて、ギリギリ空いてるケーキ屋さんで売れ残りの安くなったケーキでも買って帰って、一人で晩酌ケーキでもしようかな、なんて考えていただけだった。
 帰宅途中で千冬からメッセージが届いていることに気付いて慌てて確認すると、仕事終わったか? とだけ書いてある。
 ケーキ屋に向かって歩きだしていた俺は、電話のほうが楽だなとそのまま千冬へ電話を返した。

『お、相棒仕事終わった?』
「今終わったとこ! なんか用だった?」
『なんか用ってマジで言ってる??? 今日お前誕生日じゃん!!』
「え、そうだな?」
『ケーキとプレゼントあるぜ! 俺が行くのとお前が来るのどっちがいい?』
「一応聞くけどなんか約束してたっけ??」
『してねーけど毎年祝ってんじゃねえか、記憶喪失か?』
「いやまあそうだけど!! んーこの距離ならお前の家のが近いか? 今から行っていいの?」
『当たり前だろ! つーか明日休みなら泊まってっていいぜ! 帰るの怠いだろうし』
「何の用意もしてねーからそれはちょっと……まぁ千冬だし良いか。でも今度からはそういうことは先に言ってくれよな、そしたら俺は今日この時間を楽しみに仕事とか頑張れただろ!」
『ッ、そ、そうだな悪い!! じゃあ待ってるからゆっくり来いよ!』
「おー!」

 驚きはしたものの、まあ折角だし呼ばれておくか、と俺はそのままコンビニへ入店する。
 最低限の下着の替えくらいは欲しい。
 歯磨きセットとかはしょっちゅうお邪魔するためとっくに常備されてあるし、寝間着は千冬のを借りればいいだろう。
 ……妙齢の男女の関係としてこれは本当に大丈夫なんだろうかと思わなくもないけど、まぁ付き合いも長いしこんなものなのかもしれない。
 平気で同じ部屋で雑魚寝する生活に慣れた元ヤンの成れの果てかと思うとちょっとアレだけどさ。
 千冬は大事な友達で、相棒だ。
 多分これからもずっとこんな感じなんだろうなって思うし、そうであってほしいと願う。
 例えば千冬に彼女が出来たら、俺はこんなふうに気軽に遊びに行ったり泊まりに言ったり出来なくなるんだろうな。
 それが正しいこととはいえ、どこか寂しい気持ちになる。
 あいつあれで結構モテるから、彼女くらいすぐ作れそうなのに未だにフリーなんだよな。

「ずっとこのままがいいなぁ」

 この、居心地のいい繭の中で微睡んでいたい。
 タイムリープはもうしないし、やり直ししない人生は進んでいくだけだけど、それでも、停滞していたいと思うのは我儘だろうか。
 ……なんてあれこれ考えていたらあっという間に千冬の家に着いてしまった。近ぇ。
 ドアに反射して映るのは、仕事で疲れ切ってファンデは剥げてるし髪はぐちゃぐちゃ、服はヨレヨレの疲れたOLだ。
 これはひどい、と思いつつも今更千冬相手に取り繕うのもアレなのでそのままチャイムを押す。

「おっいらっしゃーい!! 入れよ相棒! お疲れ!!」
「お疲れ~そんでお邪魔しまーす! あ、そういやコンビニ寄ったのに手土産とか普通に忘れてた……」
「いらねーよお前の誕生日だぞ!? 食うもんも飲むもんもちゃんとあるから安心しろ!! お前は居るだけでいいからな!!」
「何その至れり尽くせり」
「誕生日記念コース? まあ良いから上がれよ! つーか他の連中からは声掛からなかったのか?」
「あー、皆忙しいんじゃね? 俺も自分からは言わないし……あ、でもメッセージなら結構来てた」
「ふーん、じゃあ俺は普通にツイてたってわけか」
「え?」
「なんでも」

 お祝いのメッセージは送ってきてくれてたけど、皆社会人なんだから当日にお祝いなんて普通に難しいだろう。
 当たり前みたいに会える前提で行動してる千冬のほうがレアだと思う。会いに来る俺も俺だけど。
 千冬は俺を部屋に案内して、これ凄くね!? と小さめのアイスケーキを取り出して見せてくる。

「うわ! すげえ何それ!! アイスケーキじゃん!!」
「おー、最近急に暑いし絶対相棒喜ぶと思って!!」
「しかもホールじゃん!! ふたりで食べちゃうのか!? 許されるのか!? アラサーの夜に!?」
「誕生日だからセーフ!!! あ、飯と酒もあるから」
「飯テロか!! ピザとビールとか最高すぎるだろ!! つーかこれ俺がもし来れなかったらどうする気だったんだよ!?」
「え、絶対来るか行くかしただろ? 今結局いるわけだし」
「信用が凄い……俺朝まで自分が誕生日なこと普通に忘れてたんだけど……」
「年に一回なんだから覚えとけよ流石に」
「返す言葉もねえけどもうこの年になるとあんまりなぁ……」

 千冬の計画性のあるのかないのかわからない俺のバースデー会はなんやかんやで楽しく過ぎていく。
 俺の好みの味ばかりを頼んでくれたピザは当然美味しいし、ビールを喉に流せば最高の気分になった。
 アイスケーキも二人でスプーン直食いとかいう最高にお行儀の悪い、でも楽しいことをしてあっさり完食してしまったし。
 会社の愚痴やら最近の出来事なんかを話していたらあっという間に二時間くらい経過していた。

「あ、やべえもうこんな時間か! 相棒風呂先に良いぞ」
「千冬先に入っていいよ、俺片付けとくし」
「主役は大人しく世話されてろ! ッてやべ、プレゼント渡すの忘れてた!」
「正直今の今までも十分にプレゼントだったんだけど気付いてるか????」
「飯とかのことか? でもこれは俺もお前と一緒に騒ぎたかったから口実みたいなもんだしな……ほら、プレゼント!」
「ありがとな! 今年の千冬の誕生日は奮発してやるから楽しみにしてろよ!」
「期待してまーす」
「あんましてない時のやつじゃんそれ」

 なんか貰いすぎだぞ流石に、と基本図太い俺ですら貰うのを躊躇うけど、突き返すほうが失礼なのでひとまず受け取った。
 中身見ていい? と聞けばもうお前のなんだから好きにしろよ、と笑われたので遠慮なく包装を(いつもよりは丁寧に)開いていく。
 小さなケースが出てきたので、さらにそれをパカっと開くと、そこにはシルバーの指輪が入っていた。

 ……指輪??????
 細身のシルバーに、薄水色のお花の形の石が着いた指輪は俺には少々可愛すぎる、というかいやそれ以前に。

「指輪!?!??!」
「え、ダメだった!?」
「だ、ダメっていうか、えっと、」
「これ一目見た瞬間絶対相棒に似合うと思って衝動買いしちまったんだよな……ほら」
「ッ、」

 千冬はにひひ、と楽しそうに笑って俺の左手をすくい上げる。
 そして、躊躇うことなく薬指に指輪を嵌め込んで、満足そうなドヤ顔を見せた。

「ほら、超似合う!!」
「……ありがとう?」
「なんで疑問形だよ。あ、もしかしてデザインが好みじゃなかったか?」
「いや、俺には可愛すぎねえかなとは思うけど別に好みじゃないとかでは……」
「別にそんなことねえって。似合ってるし可愛いだろ」
「~~~ッ、おう、ありがとな! じゃあ俺風呂入るからっ!!」
「いてらー」

 千冬はひらひらと手を振っていつも通りのご様子だ。
 俺は指輪を嵌めたまますっかり第二の自分家みたいな千冬家の洗面所にやってきて、扉を閉めて、ずるずると腰を落としていく。

「……え、もしかしてこれってプロポーズなんじゃ……」

 好きとか一言も言われてないし付き合ってすら居ないはずなんだけど。
 え、言葉は要らねえぜ的な!?
 俺たちなら言葉は無くても通じ合えるってこと!? 流石に限度があるだろ!
 指輪はドン引きするほど俺の薬指にぴったりで、もうここ以外に嵌る気はないと言わんばかりに輝いている。
 えぇ……俺はこれどうすれば……?
 いやプレゼントとしては普通に嬉しいけど、俺達現状ただの相棒のはずなんだけど。
 もしかして俺の知らない間に付き合ってたりしたっけか。
 酔っぱらって告白したりされたりしたっけ?
 よしんばしてても絶対千冬も俺も覚えてねえだろ!!!
 わからない以上ひとまず様子を見るしかないんだろうが、呑気に風呂入ってて良いのかという気持ちにはなる。
 もし千冬がお泊まりを勧めてきた理由ももしかしてそういう、とか考え始めたら真剣にのぼせてしまいそうだ。
 俺は素早く風呂を済ませて、相変わらず色気もクソもないコンビニ下着を身に着け、千冬のスウェットを着用する。
 あいつは機嫌よく部屋の片づけをしていて、俺も風呂入ってこよ! と呑気そのものだった。なんなんあいつ。

 なんか俺たちはずっと学生の頃からノリが変わらなくて、永遠にこのままで居られると半ば本気で思っていた。
 大事な相棒、友達、一生幸せでいてほしい、生きててほしい、そんな存在。
 だから、自分でも驚いているんだ、本当に。

「指輪貰ったってだけで、なんでおれこんなに嬉しいんだよ……」

 千冬に他意はないだろうに、それでも俺はあいつから指輪を貰ったという事実がたまらなく嬉しくて。
 他にも千冬に指輪を貰いたい女の子なんてたくさんいるだろうに、俺にくれたことが嬉しい。
 男友達のように思っていたはずなのに、たったこれだけのことでドキドキしてしまう自分が悔しいけど、気づいてしまったらもう戻れないじゃん。

「おれチョッロ!!!!!!!」
「え、今更なんだよ」
「うおびっくりした!! いや今更って何!?」
「相棒はいつだってチョロいだろ」
「失礼すぎねえ?????」
「まあまあそう怒んなよ、ほら、お前が観たがってた映画見ようぜ」
「あ、配信もう始まってたのか!! 楽しみ!!!!!!」
「そういうとこなんだよな」

 しょうがないじゃん俺の家のテレビじゃサブスク見れねえし。でっかい画面で映画最高だろ!!
 俺もそのうち金が貯まったらネット配信観れるテレビ買おうかなぁ、とぼやけば、別に見たかったら俺ん家くればいいだろ、と千冬は何でもないように言った。
 ただ映画を見に家に遊びに来るのもどうなんだろうと思ったけど、ただゲームするだけで家に遊びに行ったり来たりしてたし千冬的には今更なのかもしれない。
 大人の男女で、俺の家に映画見に来いよ☆ は大体そういうお誘いの暗喩らしいけど、そんな気配は微塵もなかった。

「あ、指輪つけてくれてる」
「んー、まぁ、可愛いし」
「似合ってるぜ、相棒!」

 心底嬉しそうにする千冬の顔を見て、これで他意がないのは逆に怖いな、と心底思いながら俺は映画を楽しんだ。
 そしてそのまま揃って寝落ちしてしまい、特段何かが起きることもなくいつも通りに解散したのだった。

「そんなことある?????????」
「やっぱりそう思いますよね!?」

 翌週。
 俺は偶然街出会った一虎くんに誕生日に起きたカオスの話をすると、俺以上にまじかよみたいな反応をしてくれてちょっと安心した。
 よかった、俺もそこまで恋愛に明るいわけでもないし今どきはあんな感じで普通だろって言われたらどうしようかと思ったぜ!!
 一虎くんは普通にドン引きしていて、俺の感覚がおかしくなったわけでなくてマジで良かった……けど千冬のあの感じについては別に全然良くないのである。

「どう思います? あれって千冬なりのプロポーズだったんですかね?」
「よしんばそうだとしても付き合ってもないのに飛ばしすぎだろ。ブレーキとかついてねえのかあいつ」
「それは本当にそうなんですけど千冬は昔からブレーキとかなかった気が」
「車検で引っかかれ、じゃなくて!! タケミチ的にはどうなんだよ? もし本当にプロポーズだとして、嬉しい? それともこいつやべえわってドン引き?」
「……今のところフィフティフィフティって感じです」
「その感情同居することあるんだな」

 嬉しいは嬉しいけど、もしプロポーズならもっとわかりやすく言ってほしいというか。
 まあ何よりまず俺たち付き合ってすらいないんだけど。

「そりゃ、俺だっていい年ですし? プロポーズされたら普通に嬉しいじゃないっすか、相手もすげえ仲良い奴ならなおさら」
「まあ、そうだな」
「ただプロポーズじゃなかった場合も全然あるわけで。俺ばっかり気にしてんのもなんか腹立つし、意図含めてもう一回問いただしたい気もするというか」
「うーん……あ、いっそお前はお前で思わせぶりなことしてみたらどうだ?」
「えっ」
「あいつだってさ、まったく気のない相手に指輪やるほどアホじゃない……と信じたいじゃん? 他の女にそういうことしてるの見たことねえしさ」
「……そうすね」
「タケミチがあいつと結婚してやってもいいって思えたんなら、いっそ逆プロポーズしてやるのはどうよ?」
「逆プロポーズ!?」

 すげえ、まだ付き合ってないという全ての大前提を完全スルーして話だけがどんどん進んでいく。
 でも正直どういうことか気になったので具体的にどういうことすか、と俺は興味津々に尋ねた。

「例えば、指輪した状態で二人で出掛けるじゃん? そんでいい感じの空気になったときに結婚を匂わせるようなことを言うとか!」
「匂わせ!?」
「カップル限定を食いに行くとかもいいかもな、わかりやすくて」
「あ、それは確かに……匂わせとか俺やったことないんですけど難しくないすか?」
「そうか? いい感じの空気の時に『これってプロポーズ?』とか聞いちゃえばいいじゃん」
「匂わせどころかストレート剛速球じゃないですか!!!!!」
「まあほら、そこに至るまでにあいつが気付けば匂わせられてるかもしれねえし」
「希望が薄い!!! そこで気付くような奴は多分何も考えずに指輪とかプレゼントしないと思います!!!」
「ド正論~~~~!!」

 結局色々話したものの、俺からデート(仮)に誘って、そこで真偽のほどを確かめてこい、というところに落ち着いた。
 まあ結局素直に聞くのが一番早いんだろうな、もしプロポーズじゃなくても俺たちなら笑い話にしてしまえるだろうし、とも思ったし。
 ……まあ、俺が笑えるかどうかはともかく。
 もし本当に何の他意もないプレゼントだったらその時は俺と場地で乙女心を弄ぶな!!! ってあいつ殴りに行ってやるよ、と一虎くんが茶化すように肩を叩いてくれて、少しだけ心強いなと思った。

「相棒お待たせっ!!! 待ったか!?」
「ううん、今来たとこだから。つーか悪いな急に」
「全然!! 行きたいとこがあるんだっけ?」
「そうなんだよ、俺一人じゃ無理だから一緒に来てほしくて」
「どこ行くかは知らねえけど任せとけ!!」

 どこ行くかも言ってないのにホイホイ釣れたしどこ行くかも知らないのに何でこんなに自信満々なんだろうな!!
 いや、トーマンメンバーってわりとみんな平等に自信家だった気がする。うん、まあ、自己肯定感の高さは良いことだから……!! 下手に闇落ちされるくらいならいっそ過剰なまでの自信の光で元気いっぱい眩いていてほしい。

 そんなわけで、俺はある日の休みに千冬をデート(仮)に誘ったわけだ。
 今日行くのは少し小洒落た喫茶店。
 パフェが大きくて美味しいと噂の店で、カップル限定のやつを頼んでみようと思ってそこにした。
 これで千冬が何言ってんだよ!? ってびっくりするか、当たり前みたいな顔してるかでどう思ってるのかわかるかもしれない!!
 下心しかないお誘いだったけど、千冬は何も知らずに呑気にパフェでけえ~~! とか言っている。この間の衝撃をお返ししてやるから覚悟しとけよこの野郎。

「すいませーん! このカップル限定パフェとクリームソーダ二つお願いします!!」
「かしこまりました!」
「えっ」

 上から俺、店員さん、千冬である。
 これは……驚いてるな……? やっぱり他意はなかったってことか?
 どう切り出そうか迷っていると、千冬のほうから声をかけてきた。

「あ、相棒、今カップル限定って」
「さっき言ったろ、一人じゃ無理なところって。……これは、そういう意味じゃなかった感じ?」
「!」

 俺は一虎くん直伝の全力あざとい角度で、指輪を嵌めた左手を千冬の手に重ねる。
 うわあやばいこれめっちゃ恥ずかしい!! 一虎くん欲しいものがあるときは大体この角度とやり方で全てを手に入れてきたって言ってたけどあの顔面でこんなんされたらそりゃそうなるわ!!!!
 一虎くんはともかく俺にはちょっと苦しいものがあるな、と恐る恐る千冬のほうを見てみれば、千冬は一瞬固まっていたがはっとしたように目が合う。

「っそ、ういう意味、でもいいのか……?」
「……何の意味もなく指輪渡すのかよ、お前」
「~~~ッごめん言い訳だけ聞いてくれ!!!」
「すみませーん、カップル限定パフェとクリームソーダお持ちしましたぁ!!」
「わかった、パフェの後でいいか?」
「良いです!!!」

 せっかくだから美味しく食べたいしな、パフェ。
 店員さんは『別れ話だったらこの場合パフェどうなるんだろ』みたいな顔をしていたけど、安心してください別れるどころかまだ付き合ってすらいません。
 俺たちはひとつのパフェを食べ始め、時に奪い合いながらも綺麗に食べ尽くした。
 クリームソーダはなんとなく適当に頼んだけど、ここのクリームソーダが美味しいって前にヒナが言ってただけあって美味しい。
 甘ったるい口の中をしゅわしゅわで満たして、一息ついてからようやく本題に入る。

「よし、言い訳を聞こう」
「言い方……!! いや、あのな。指輪が相棒にめちゃくちゃ似合うと思ってその場で衝動買いしたのは本当なんだ」
「指輪を衝動買いするのはやめたほうがよくない??? ていうかよくサイズわかったな」
「サイズはほら、いつも見てるからわかるけどさ。買ってから気付いた、これ付き合ってもないのに渡すのは重くね? って」
「よかった!!! 重いって気付いてたことに安心した!! 実は結構怖かった!!」
「ごめんって!! いやでもせっかく買ったしこれはチャンスだと思ったんだ。もしこれを渡して、相棒がすげえ嫌そうな顔したり、突き返したりしてきたら脈なし、普通に喜んでもらえたらワンチャンあるんじゃねえかって」

 俺も似たようなことを今している以上あまり強くは言えないけど人の誕生日を実験に使うなよ!!
 まあでも言い訳を聞くと言った以上ひとまず黙って続きを拝聴しようか。

「で、なんていうか、お前もすげえ普通に受け取ってはくれたんだけど……冷静に考えたら付き合ってもないのに指輪貰って喜ぶのって逆に意識されてないってことじゃね、みたいなスパイラルに陥って、真偽を確かめられませんでした……!!」
「その疑問は出来たら渡す前に気付いてほしかった……!! 俺も一応平静を保ってはいたけどだいぶ驚いてたからな? 突然笑ってはいけない誕生日会になった俺の気持ちわかるか??」
「マジでごめん!!! ッ結局、そういう意味で受け取ってくれたってことで、良いのか?」

 まあそういう話になるよな普通!!
 煽るようなことを言ったのは俺だし、無駄な回り道をした気もするけど、当初の目的は果たせそうで何よりだ。

「俺はお前の誕生日まで待てないからな」
「え、」
「指輪、俺のだけじゃダメじゃん。お前のも買いに行かねえと」
「相棒……!?」
「もう少しお金が貯まったらおまえの分も買ってやるから、大人しく俺に貰われてくんない?」

 付き合ってもないのに逆プロポーズする羽目になるとは思ってなかったけども。
 同じ気持ちであるのなら、俺たちにこれ以上言葉はいらない。
 実際、嬉しかったし、俺は一生隣に誰かがいるのなら、それは千冬がいいから。

「安心しろよ、例えこの先何があっても、何度でもやり直して絶対お前を幸せにしてみせるから!」
「相棒が言うと説得力半端ねえ!!! つーかそれってプロポーズ……!! お、俺のセリフ取られた!!!」
「千冬がもたもたしてるのが悪いんですー!! 俺だってまさか自分が逆プロポーズするなんて夢にも思ってなかったわ!」
「待って俺にも!! 俺にもプロポーズさせてくれ!!!! このままだと俺あまりにも格好悪すぎる!!!」
「どんまい!!!」
「くそーー!!! 覚えてろよ近日中!!!!」
「え、俺まさか近日中にもう一回プロポーズされる感じ???」
「あれをプロポーズにカウントされたら一生笑い話にされる気がするんだよ!! 頼むからリベンジのチャンスをくれ!!! 最高に格好いいプロポーズするから!!!!」
「一生笑ってられるならいっそ最高だと思うけど……まあ俺もせっかくなら千冬に格好よくプロポーズして欲しいしな」

 半泣きの千冬に、俺はにやりと笑って指輪を外す。
 それをほい、と千冬に返却して微笑んだ。

「テイクツー、待ってるからな!!」
「~~~~ッおう!!!」
「じゃあ話も纏まったところで、千冬っていつから俺のこと好きだったの? 全然わかんなかった」
「それを言ったらお前だって!! 俺はずっと前からお前のことしか好きじゃねえ!!」
「そこまで言い切るのに告白は「やめろ~~~~!!!」ごめんて」
「ちなみにお前はどうなんだよ」
「俺はお前に指輪貰ってからそういう発想に気付いた感じ」
「……まじか、俺結構綱渡りだったんじゃ」
「まあまあ、結果オーライだろ! もし普通に告白されてたとしても俺はちゃんと真面目に考えたと思うし、千冬のことは好きだからどのみちオッケーだったと思うし」
「~~~~ッ相棒もしかして俺のこと結構好き……!?」
「好きじゃなかったら指輪なんか突き返すだろ! 大好きに決まってんじゃん!」
「俺のほうが大好きだ~~~~!!!!!!!!」
「声でかいバカ!!」

 そういやここ普通に店じゃんと思い出して慌てて押しのけようとしたら、何故か店内のお客さんと店員さんが拍手をしてくれてやめてくれって言いにくくなってしまった。
 めちゃくちゃ恥ずかしいけど目の前で半泣きで喜んでる千冬を見たら、なんかもういいかなこんな感じのプロポーズも、と思えてしまう。

 千冬は格好つけだから多分黒歴史って思ってるかもしれないけど、俺はこれはこれで思い出に残る楽しいプロポーズだなって思ってるよ。
 あいつの考える最高のプロポーズとやらも気になるからテイクツーを要求してはみたけど、本当は最初のだけでも十分だった。
 なんていうか、こいつとなら何があっても一生笑って生きていける気がする。
 本当はもうとっくに、俺の胸は撃ち抜かれていたんだ。
 大好きなんて言葉じゃ全然足りないくらいだ。だって、いつも隣に在るのが当然だと思ってた。
 俺は今更、千冬が隣にいない世界でなんか生きていけないんだよ。

「なーなー帰りさ、手ぇ繋ごうぜ!」
「吹っ切れた瞬間バカップルじゃん」
「ダメか?」
「……人の少ないとこだけな」
「よっしゃあ!!!!!」

 ああもう、幸せそうだなぁ。
 俺だってきっとそう変わらない顔をしている。

 お互いを撃ち抜いた弾丸は、とっくの昔にこの胸に埋まっていた。
 だから、これからもずっとずっと、それを大切に握っていく。

 何があっても絶対に離したくない大切な人。
 俺の全部をあげても、後悔しない人。

 最初からずっと、お前だけだったなぁ。

「千冬、次の休みに一緒に部屋でも見に行こうぜ!! あと指輪も!」
「良いな!!! 店長権限で絶対休みにする!!」
「……場地くんと一虎くんに謀反起こされないようにだけは気をつけろよ?」

 未来のことを考えると、不安でたくさんだったのに、今ではこんなに楽しみだ。
 明日も明後日も、楽しい未来に思いを馳せながら、きっと俺たちは生きていく。

 ずっと先の未来で、今日のことを笑って話す日が今からとても楽しみだ!!

終わり
 
 タイトルをふゆタケ♀プロポーズ大作戦RTAにしようとしてギリギリ踏みとどまったので褒めてください。
 少々ヘタレを拗らせている千冬とひたすら困惑しつつも白黒つけようとするみっち♀だとここまで千冬がやばいことになるとは正直思ってなかったですがこれはこれで面白いかなと思いまして(言い訳)
 最終的には幸せになるし……今から本気出すと思うんで……!!!
 とりあえずみっちは誕生日おめでとう!!!!!!

いりあ

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