いやって程に証明された - 2/2

 目が覚めると、全裸だった。
 見覚えのない高い天井、俺の煎餅布団とは明らかに寝心地の違うふかふかのベッド、そして一糸纏わぬ姿の俺の隣に、同じく(下が見えないので確認は出来ないが少なくとも上半身は素肌のままな)三ツ谷君が眠っている。

「…………………」

 滝のような汗が滲むのを感じつつ、俺は痛い頭を手で押さえる。
 この痛みは、うっかりにも程があるこの状況に対するものなのか、昨夜の酒がまだ残っているのか、せめて後者であってほしい。いやどっちもあれだけど。大人としてどうよ?
 そう、昨夜は久しぶりに飲み会をして、集まれるメンバーで酒を飲んでて。
 久々なのに飲みすぎた俺はふらっふらになった、というのは記憶に残ってる。
 俺が酒で前後不覚になったとき、いつもは大体千冬が俺を家に放り投げて帰ってくれるんだけど、昨日は場地くんもかなり酔っていたから、そっちを送り届けたのだろう。
 そして方角的に一緒の三ツ谷くんが俺の送迎を申し出てくれて、俺は抱えられて帰宅しようとした、ところまではどうにか覚えている。
 問題はその後だ。
 ここは多分三ツ谷くんの家で、俺はきょろきょろあたりを見回す。
 脱ぎ捨てられた俺の服、というのは特に見当たらず、つまり自分で脱いでここまで来たか脱がされてここまで来たかのどっちかだ。
 ベッドに雪崩れ込んで勢いでどうこう、というのではない、はず、多分、きっと、そうであれ。
 酔った勢いでめちゃくちゃ世話になった先輩を襲うとか人として最低過ぎるだろ。いくら優しい三ツ谷くんだって絶対呆れたしなんなら起きた後殴られるかもしれねえ。
 ふと自分の体を見ると、少なくとも目に見える範囲にキスマークとかは見当たらないし、やはり嫌々抱いたのだろうか。マジで申し訳ねえにも程がある。

「うーん……?」
「げっ」

 凡そ酒の勢いでワンナイトしてしまった女の第一声ではなかったが、出たものは仕方ない。こっちはまだ何の覚悟も言い訳も思いついてないんだぞ。
 もう少し寝ててくれ頼む、と思う俺の気持ちも空しく、三ツ谷くんの薄いパープルの瞳が見えた。

「……おはよう、タケミっち」
「…………おはようございます、三ツ谷くん」
「なんでいきなり土下座!?」
「いや怒られる前に謝っとこうと思って……」
「いやいや朝一番から後輩に突然全裸で土下座されるのめちゃくちゃ心に来るからやめろ!? ほら起きて、いや待って起きるな体見えて、起きるなってば!!」
「え? でも俺もう既に全裸だし、全部見たんですよね? なら今更だし別に良くないです?」
「良くないだろなんで変に潔いんだお前!! ああもう、俺の服持ってくるから一旦毛布にくるまってろ!」
「はーい」

 見たくないほど貧相だっただろうか、いやまあ確かに三ツ谷くんが普段お相手してそうなボインでセクシーな女性とは程遠い気はするけど。俺どっちかといえば細身だし。ボンキュッボンっていうよりはこけしスタイルだし。
 暫くして、三ツ谷くんが持ってきたシャツとズボンを借りて、ズボンが緩すぎて速攻で落ちる事故が起きた結果大きめのシャツをワンピースみたいにして着ることになった。三ツ谷くんが何故か良い笑顔で『朝飯、豪華にすっからな!!』と親指を立てていた。あれ? 怒られないの??

「え、ええと、三ツ谷くん。俺、昨日のことあんまり覚えてなくて」
「ああ、だろうと思った。飯食いながら説明してやるよ。タケミっち卵は目玉とスクランブルと卵焼きどれ派?」
「……卵焼きがいいです」
「甘いのとだしとしょっぱいのは?」
「……だし?」
「おっけー。なら今朝は和食だな」

 三ツ谷くんは凄まじい手腕で和食な朝食を作り上げていく。
 俺も何か手伝おうとしたけど、かえって邪魔になりそうと思った結果ただただ三ツ谷くんの後ろをうろうろしていた。邪魔すぎる。

「っぷ、タケミっち、何してんの」
「え、いや、なんか手伝えないかなって……」
「後ろからぴょこぴょこついてきてるとなんかヒヨコみてえだな」
「俺今黒髪なんですが」
「カラーひよこ最近見ないよな」
「あぁ、確かに」

 盛大に話がそれたあたりで三ツ谷くん特製ブレックファーストが出来上がった。具沢山味噌汁と卵焼きとサラダにベーコン、ご飯に恐らくは常備菜らしい小鉢という、俺にとってはかなりのご馳走朝ごはんである。
 同じ机についていただきますをすると同時に、三ツ谷くんは話し出す。

「とりあえず、俺ら何も起きてないから安心しろよ、タケミっち」
「えっ」
「朝目が覚めて記憶ないのに全裸だったらビビるよな、すげえ顔してたし」
「俺三ツ谷くん襲ってないんですか!?」
「なんでお前が襲う前提なんだよ……」
「おかしいと思ったんですよね、三ツ谷くんなら俺ごときに襲われても一発KO出来そうだし!!」
「おかしいと思ったポイントは本当にそこで良かったのか?? つーか襲われても別にKOしねえよどんな人でなしだ」
「じゃあなんで俺全裸だったんですか?」
「やっとそこに疑問を持ってくれてありがとうタケミっち」

 とりあえずこの感じだとマジで最悪の事態は防げたっぽい。
 よか、よかった! 長年仲良くして世話を焼いてくれた最高の先輩をワンナイトで失うことにはならなそうでマジでよかった!!

「昨日酔ったお前を送ろうとしたけど、吐きそうっつーからひとまず俺の家に連れてきて、結局間に合わずにトイレの前で吐いちゃって」
「俺の最悪の予想をはるかに上回って最悪なことしてた!! やっぱ裸で土下座で正解だったんじゃないですか!!」
「いやまあ酒を勧めた俺も悪いし……久々に会えて嬉しかったからついあれこれ勧めちまって」
「いや飲んだのも食ったのも俺の自己責任なんで……三ツ谷くんは何も悪くない……」
「そんでタケミっちの服にも結構付いちまってたから悪いと思ったけど脱がせて全部洗わせて貰った。下着にも染みてたから脱がしちまってごめんな?」
「全然……むしろすいません……俺はなんてことを……」
「さすがに同じベッドで寝るのはどうかと思ったから俺はソファで寝ようと思ったんだけど、風呂上がりにタケミっちにしがみ付かれて一緒に寝る!! って擦り寄られて……俺は負けた……」
「全部一から百まで俺が悪かった……!! 本当にすみませんでしたそれなのに朝ごはんまでご馳走になってしまって本当にごめんなさい……!!」
「いや俺が勝手にやったことだから。ていうか怒ってねえの?」
「なんで!? どこに!?」

 三ツ谷くんは少しだけ決まり悪げに笑みを潜めて、俺に問う。

「だって、付き合ってもない男に裸見られた上に同衾しちまったし、朝すげえ怖かっただろ?」
「や、それは別に……いや怖かったっちゃ怖かったですけど……俺が三ツ谷くんを襲ってないかどうか的な意味で……」
「だからなんで俺が襲われる側だよ。食われるとしたらどちらかというとお前だよ」
「……だって、俺、酒にのまれて好きな人襲ったとかいよいよ最低な奴じゃないですか」
「……ん?」
「だからマジで安心したんですよ、何もしてなくて! もししてたとしても俺は三ツ谷くんを責める気は全くなかったです! むしろ何も覚えてないことのほうに後悔してそう」
「え」
「せっかく三ツ谷くんとワンナイト出来たのに忘れちゃうとかもったいなすいません今までの発言全部忘れて貰ってもいいですか???」
「いやもうそこまで話したらほぼ全部出ちゃってるし無理だろ」
「うわぁああん口が滑った!!!!」

 まだ若干酒が残ってふわふわしていた頭のバカ野郎!!!!!!!
 とんでもなく雑な上に最低な告白をかましてしまった俺はいよいよ消えたい。今すぐ直人かマイキーくんと手を繋いで昨日の夜に酒を飲みすぎる前くらいまで戻りたい!! 今こそタイムリープの力を使うべきだろ!!

「つーか聞かなかったことには出来ねえよ」
「っで、ですよね、ごめんなさい……」
「なんで謝んの? 俺嬉しいのに」
「へ?」
「俺は元々お前のこと好きだから、お前も好きなら嬉しいに決まってるじゃん」
「……いやいやおかしいです!!」
「はあ!?」
「酔って人の家で吐くような女のどこがいいんですか!?」
「いや前から好きだからこそ家で吐かれたくらいで嫌いになれねーんだけど。正直昨日の夜やらかさないように必死に耐えてたのはむしろ俺だからな???」
「嘘でしょ!? 三ツ谷くんが俺のこと好き!? そんなバカな!? まだしも実は女だったんだとか言われたほうが説得力ありますよ!?」
「全然信じる気がねえなお前。……本当かどうか、試してみるか? ついでに女じゃねえことも」
「わ!?」

 三ツ谷くんは食べ終わった俺を笑顔で抱きかかえて、そのまま寝室へ戻ってきた。
 ぽすん、と優しくベッドに寝させられて、その上にマウントを取るように三ツ谷くんが乗っかる。
 せっかく朝着直したシャツを脱ぎ捨てて、その美しい腹筋が目の前に露になった。

「み、っみつやくん、」
「昨日死ぬほど我慢したけど、我慢しなくて良かったっぽいし? 今なら記憶も消えねーだろ♡」
「っひぇ、」
「両想いなら、ワンナイトじゃ終わらせねえよ? 勿論嫌なら無理強いはしないけどな」

 こんな色々と酷いザマの女に逃げ道まで残してくれるとかやっぱり三ツ谷くんは神なのでは。
 ちくしょう顔がいい。
 三ツ谷くんに迫られて嫌な女とかこの世にいる? いねえよなぁ??(セルフマイキーくん)

「タケミっち、どうする?」
「…………ごめんなさい」
「!」
「せめて……せめて先にお風呂に入らせてください……!! 最中にゲロ臭い女と思われるのだけはどうか勘弁して……!!」
「俺はそんなの気にならねえけど」
「俺が気になるんです!! 欲を言うならちゃんとした下着とか着たうえでリベンジさせてほしいですけど!!」
「悪いなタケミっち、ヤること自体が嫌じゃねえならここから何もせずに帰してやれるほど優しくはねえよ俺」
「良い笑顔だぁ……!! でもお願いしますからお風呂だけは許してください……!!」
「……わかった」

 良かったわかってくれた!!
 ほっとした俺を三ツ谷くんは笑顔でまた抱きかかえる。
 え、と思っている間に俺は風呂場に連れてこられた。
 そしてそのまま三ツ谷くんは自分のズボンを脱ぎ始める。

「っっちょわぇえ!?!?」
「どういう奇声だよ」
「なんでみつやくんもぬぐんですか!!!!!!」
「俺も一緒に入るからに決まってんだろ! いやぁ俺タケミっちのこと洗うの楽しみだなぁ!!」
「いやいやいや自分で出来ますし」
「ゲロ塗れの服洗ったんだから、タケミっちの体も当然俺に洗わせてくれるだろ?」
「脅迫じゃないっすか!!! わかりましたよもう!!!」
「よしよし」
「でもその前に1個だけ!」
「お?」

 そう、なんか流されるままにここまで来たけどこれだけはちゃんとはっきり言っておかないと。
 いや俺は言った気がするけど、まだそういうことは明言されてなかったから。

「俺、三ツ谷くんが好きです。……俺と付き合ってくれますか?」
「もう完全にそのつもりだったとはいえ、この状況で言われるとめちゃくちゃ上がるなそれ。……俺も好きだ、付き合ってくれタケミっち」
「はい!!」

 はっきりした関係になった以上、そういうことになっても問題ないだろう。
 俺は最初から一度だってそういうことを拒むつもりはなかった。
 三ツ谷くん程の格好いい人が、まさか俺なんかを好きだなんて信じられなかっただけで。

 だから、証明してもらおう。

「じゃあ、その……よろしくおねがいします?」
「こちらこそ」

 朝だというのに甘ったるい声が響く。
 自分のものじゃないみたいな声を聴くのが、三ツ谷くんで嬉しいやら恥ずかしいやらだ。

 きっかけは俺の最低な酔っ払い事故だったけど、これもきっとひとつのハッピーエンドなんだろう。


終わり

たてのーーーーん!!! 誕生日おめでと!!!!! 朝知ってびっくりした!!!!!!
猛ダッシュで書いたから色々酷かったらごめ、いやむしろ酷いところしか見当たらないな!?
みつ武♀に関しては今まで一回しかまともに書いたことがないので大目に見れてくれると嬉しいです!!!!
これからもよろしく!!!!

いりあ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です